空の城の記録庫

空城が気ままに書いた小説を公開するブログ…なのですが、私は小説を書くのが下手なのでほぼ自己満足の為にあるブログです。

ひっそりと、されど楽しく、永久に生きよう 第二話

此処は不思議な世界。自分と少女のみで作られた夢のように朧な、そう夢の世界。

俺はそんな世界で器の少女と出合った。



君は誰だ?

「私は私。ハンナ・ミーユ。貴方の器となり彼方に消え行くちっぽけな意識の残り滓。」

それじゃあ…。

「何も知らないくせに哀れんだりはしないでね。私は私の意志であの紅世の王に協力したのだから。」

何でそんなことを?

「強いて言うなら『私に関わった全ての人に私の存在を忘れて欲しかった。けど、私が確かに居たっていう証拠を残したかった』ってところかしらね。紅世の徒である貴方には解らない感情かもしれないけど。
ま、そんな話はどうでもいいのよ
折角、消える前に、私の器を使う貴方と会えたのだから、私が叶えられなかった願いを貴方に託しておきたいの」

俺がその願いを叶えられるかどうか解らないぞ。

「そんなことはどうでもいいのよ。重要なのは、私を使う貴方が私の願いを知っているってことなのだから」

そんなので良いのか?

「良いのよ、そんなので。私は自身の生まれ持った才能に溺れ、自らの夢をどうあっても実現できないものに壊してしまった。だから貴方にも知ってもらうだけでいいの。
私の願いは
『ひっそりとでもいいから、楽しく、永らく生きること』
ただそれだけだったのだけどね。」

君が自分でその願いを再び叶えようとすることはできないのかい?

「貴方も紅世の徒ならわかるでしょ。今の私は貴方達がいうトーチにも劣る直に消えてしまう存在だって。いま私が貴方と話しているのだって奇跡みたいなものなのよ。
それに私みたいな存在は忘れ去られるのと同時に消えてしまった方がいいのよ」

消えてしまった方が良い存在にはとても見えないけど?

「ふふ、覚えておきなさい。紅世の徒。人は見かけによらないものなのよ
それにしても貴方は変わった存在ね。
他に呼び出された徒たちは、人間としての体の動かし方が解らず、結局、そのまま消えてしまったというのに、貴方は何の不便もなく体を動かしていた。
まるで、人間だったことがあるみたい」

あははは…

「それじゃあね。もうお別れの時間みたいだから。私の器を使うのが貴方みたいな存在で良かったわ。ばいばい」



夢の世界で彼女の意思が消えていく。それは海辺に作られた砂の城が波に曝されて崩壊していくように急で緩やかな消滅であった。

不意に目頭を押さえそうになって気がつく。ああ、そうか。これが自我を確立してから初めて立ち会った『人』という存在の消滅なのだ。

祖父や祖母が死んだ時はまだよくその意味を理解していなかった。あの平穏な人間としての生活で死に触れるような出来事が起こるはずが無かった。紅世ではそもそも死という概念が解り難かった。だから、ハンナ・ミーユ、彼女の消滅こそが始めて自分が感じた死なのだ。

夢の中なのに、涙が一滴、下に落ちたのが感じられた。



そして夢が終わり、日常が来る。

フレイムヘイズとしての生活が本格的に始まろうとしていた。







「…ん〜。ここは…?」

目か覚めた俺はそんな言葉を口から発しながら辺りを見回す。目の前には大きな鏡があり、通路の隙間からは風が吹き込んでくる。

ああ、この感覚、人間の五感は素晴らしい。そう感じた後、眠る前のことを思い出す。

『秩序の雫』と自在法について議論していた俺は突然、『探耽求究』ダンタリオンによってこの体の本来の持ち主と強制契約&強制召喚させられたのだ。しかも『探耽求究』が言ったことや先程の夢を信じるのなら、契約者の意思を契約時にその存在と一緒に消し去ってしまうという特別な契約方法により、紅世の徒である俺が体の所有権を持つという特異なフレイムヘイズとなってしまったらしい。

それだけならまだ良かったのだが、その契約者が少女だったのだ。結果、俺は『頭脳は男、体は少女』というふざけた存在になってしまっていた。

というか、今気がついたのだが、俺の徒としての力は全快しているのに、この器、まだ余裕が大量にあるぞ…。

悲しい、悲しすぎる。俺の存在の力じゃ人間一人分の器さえ満たすことができないというのか。


「はぁ〜」

そんなことを思い出して溜息を付く。

やはり、どんなに人間としての感覚が素晴らしくとも、少女になったということは割り切れない。というか、気持ち悪くて嫌だ。

かといって、完全に男装するというのも夢に出てきたこの体の本来の持ち主に悪いような気がするしなぁ。

ちなみに直ちに契約を解除して紅世に帰るというのも論外。それこそ、この体の本来の持ち主だった彼女の願いを無駄にしてしまうし、流石に遭難確立が50%を超えている狭間の世界をもう一度通る気は起きない。

そういえば、夢に出てきた彼女は「他に呼び出された徒たちは、人間としての体の動かし方が解らず、結局、そのまま消えてしまった」って言っていたな。

ひょっとして、あのフレイムヘイズと思われる女性が全く反応しなかったのって、それが原因なのだろうか?

そのことを思いついた俺は、途中で見つけた布を洋服代わりにしつつ、慌てて彼女のもとへ向かう。

とりあえず、消えてはいなかった。まずは一安心だ。

さて、どうすべきか?

彼女が体の動かし方が解らず動けないというのなら、彼女と俺の感覚を自在法で共有することで、体の動かし方を覚えさせれば良いんだろうが、できるかなぁ。

通信の自在式を応用して自在法を作ればできるだろうが、実際にやったことはないから、失敗しないか不安だ。

だが、幾ら不安でも、やらない限り事態は進展しないことは解りきっているので、とりあえず始めての実験と割り切ってやってみることにする。


で、結果はというと、俺がかなりのダメージを受けたことを除けば、完璧に成功した。

尤も、そのダメージというのは、自在法の失敗ではなく、体を動かせるようになったフレイムヘイズの美女に思いっきり殴られたためのものなのだが。

どうやら、彼女は体を動かせないだけで、この部屋の様子は解っていたらしい。彼女に言わせると「全く、私を残骸の下敷きにした挙句、放置しておくなんて何様のつもりなのよ」ということだそうだ。

体の動かし方を教えたことを感謝してくれても良いんじゃないか?と思ってしまうのは俺のわがままなのだろうか?

「全く、次にこんなことが有ったら、こんなのじゃすまないからね」

動かし方を覚えたばかりの体でこちらに近づきつつ、そんな物騒なことを言うブロンズ髪のグラマーな美女。こうしてみると本当にスタイル抜群の美女だ。しっかりとした、だけど愛嬌の目、整った鼻と口、それらによって作られる顔は芸術品に近い。スタイルのほうも、体に纏っている布越しにも解るほどボッキュボンという見事な体型だ。現代でなら間違いなくトップクラスのモデルになれるだろう。

「すいませんね。
ところで、何処かでお会いしましたっけ?」

謝りつつ、なんとなく彼女の体から感じられる威圧感に覚えがあったので尋ねてみる。

「はぁ〜」

だが、その返答は重い溜息だった。そんなに拙いことを言ったか?俺。

「全く、やっぱり気が付いていなかったのね。
幾ら徒の探査能力が王に比べて格段に低いからといって、こっちに無理矢理呼び出される直前まで一緒にいた私に気が付かないなんて、どうかしているでしょ。」

呆れた様子でそんなことを言う彼女。

マジですか。うわぁ〜、言われてみれば確かにこの威圧感はそうだ。

「『秩序の雫』だったんですか」

しかし、相手の存在を探知できないというのは此方での生活を考えると痛いな。そんなことを考えながら確認のため彼女の名前を呼ぶ。

「こっちはアンタが暴走して破壊の限りを尽くしている時から『存在の聞き手』だって気がついていたわよ。全く」

うん、この『全く』という言葉をよく使うところといい、やや皮肉げな口調といい、間違いなく『秩序の雫』だ。

「まぁそれは王と徒の差ということで。
って、そういえば貴方って確か中立派の重鎮でしたよね。こっちに来て大丈夫なんですか?
「若手が暴走しがちで大変だ」って、愚痴を聞いたばっかりだった気がするんですが」

そんでもって、その時同情したら襲い掛かってきたんだよなぁ。「アンタに同情される覚えは無い」って怒鳴りながら。まぁそこまでは言わないが。言ったら絶対殴りかかってくるし。

「大丈夫な訳がないわ。たぶん私がこっちに来ていることが知られれば、私が押さえ込んでいた中立派の一部は間違いなく、こっちにやってくるでしょうね。」

それってかなり拙いんじゃない?貴方が押さえ込んでいた数って百や二百じゃ済まないでしょ。

俺のそんな考えが顔にでも出ていたのか、彼女が弁解するように口を開く。

「ま、どうにかなるでしょ。それに文句があるなら『探耽求究』に言いなさい。私が来たくて来たわけじゃないんだから」

確かにそれはそうだけど…。

「戻ったりしなくても良いんですか?」

「ねぇ、私クラスの王が『隣の世界』に行くときに時空の歪みに巻き込まれて遭難する確率がどの位あるか知っている?」

突然深刻そうな表情でそんなことを言う『秩序の雫』。

「え?確か数%程度だったような」

でもそれと何の関係があるんだ。俺みたいに五十%近い確率で遭難するとかなら兎も角、その程度なら問題ないと思うのだが?

「そう、数%よ数%。百回移動すれば数回は遭難してしまうのよ。全く、そんな危険な行為を私にやれって言うの」

うわ。前から思っていたけど何という自己中。数%の自身の危険性と、押さえ込んでいた配下の暴走を天秤に掛けて、数%の自身の危険性の方を重要視しますか。『秩序の雫』の真名が泣いているぞ。

「はぁ、そうですか。まぁ貴方がそう言うのなら別に構いませんが」

でも、結局、呆れたようにそう呟くしかない俺。変に文句を言って八つ当たりでもされたら適わないからな。

う〜ん、何か俺、紅世の徒になってから微妙にヘタレになってないか。

「まるで文句がありそうな言い方ね。全く、そういう貴方こそ、これから如何するつもりなのよ」

睨みつけるような視線を俺に向けつつ、そんなことを尋ねてくる『秩序の雫』。

これから如何するのって言われてもねぇ。特に何か決まっているわけじゃないが、強いて言うなら…。

「取り敢えず、外界宿に行って情報を手に入れようかと。もしかしたら俺たち以外にもあの教授の被害者がいるかもしれないし」

ってところかね。この時代だとまだドレル・パーティに代表されるような大規模な情報交換&資金源供給の組織はできていないが、それでも多少の情報は手に入るはずだ。幸いというべきか、フレイムへイズをやっている知り合いの王はかなり多いし、会えば話を聞けるだろう。

「まずは情報を手に入れる、か。全く、流石は『存在の聞き手』ね」

自分が世界の中心だって信じているくせに真名が『秩序の雫』という貴方には言われたくないんですが。という言葉は何とか飲み込んだ。言ったら消される。

「無闇に動き回るよりはマシだよ。君みたいに強い王なら兎も角、俺は弱い徒なんだから、情報は死活問題だしね。」

「まぁ、確かにね。ところでアンタ、外界宿が何所にあるか知っているの?
あれってこっちで暴れている王や徒に知られないように厳重に隠されているって聞いたけど」

「ああ、それなら大丈夫。伊達に『存在の聞き手』の真名を名乗っている訳じゃない。紅世にいたときに様々な王から外界宿がある都市の名前を聞いている。

え〜と、その中で此処から一番近い都市は…」

そう言いながら、言葉を調べる自在法『達意の言』と『探索』の自在法を組み合わせ応用することで生み出した、都市名や地名などからその位置を割り出せる俺オリジナルの自在法、『地探査図』を起動させる。

この自在法のいいところは何と言っても、消費する存在の力が少ないことだ。俺クラスの弱い徒でもお手軽に使えるって言うのがいいよね。

そんなことを考えながら周囲の都市を探っていたのだが、

…………………何これ?

え、嘘だよね。嘘だといって。何で、何でよりにもよって此処から一番近い外界宿がある都市が、あの、あのオストローデなんだ。

待て、落ち着け俺。そうだ何も一番近い外界宿に行く必要は何所にもないんだ。そうだわざわざ『都喰らい』で消えるだろうオストローデに行く必要はない。他を探すんだ、他を。

え〜と次に近いのは…ベルニゲローデとゴスラーか。なんかこの二つも嫌な予感がするんだが、まぁ、オストローデよりはマシか。

「全く、なに百面相してんのさ、アンタは」

不審そうに『秩序の雫』がそんなことを尋ねてくる。やばい顔に出ていたか

「いや、なんでもない、なんでもないよ」

此処で下手にばれてオストローデに行こうなど言われたら堪ったものじゃない。なんとしても誤魔化さなくては。

「嘘だね。全く、仮にも『存在の聞き手』が意味もなくあんな百面相をするはずが無いだろう。なにを考えていたんだい?」

く、拙い。何か言い訳を考えなくては。

「そのですねぇ。え〜と、え〜と。いや、なんか突然、紅世の徒の存在を感じまして」

「私が『秩序の雫』だってことに気がつかないほど、探査能力が低いアンタが?
私は一切感じなかったけどね」

しまった。そのこと忘れていた。というかやっぱり先程のこと根に持っていたのね。

「いや、それはその」

「へぇ、全く、まだ私に嘘を付く気。中々に根性があるじゃないの」

拙い、このままでは拷問に掛けられる。しかしまさか、未来を知っていますとは言えないし…。

「って、ちょ、なんですか、その貴方の手に集まっているものは」

ニッコリと笑いながら手に破壊の力を集中させるブロンズ髪の美女。やばい、怖すぎる。

「さあね、でも、もし次も嘘を付くようならこれがアンタ目掛けて素っ飛んでいくかもしれないよ」

ひぃぃぃいい。

すいません、あまりの恐怖に思わず話してしまいました。尤も、流石に原作で読んだって部分は聞き手としての力って置き換えたけど。

なんか非常に大きな死亡フラグが立った予感。でも、今此処で殺されるよりはマシだよね。そうだよね。

「ふ〜ん、それじゃ何?。あんたの『存在の聞き手』としての力が、ここから一番近い外界宿がある都市であるオストローテが非常に危険で、その内消滅するかもしれないって言っているっていうの?」

「ええ、ですから…」

諦めて他のところに行った方がいいですよ。そう言おうとした俺の言葉は完全に正反対の言葉で遮られた。

「よし、なら、それが本当なのかどうか確かめにオストローテに行ってみようじゃない」

なんでそうなるの!

「まてまてまて、俺の話を聞いていなかった?
危険なんですよ。消滅してしまうかもしれないんですよ。」

「でも、絶対にそうだって訳じゃないんでしょ」

「まぁ、そりゃそうですが。」

確かに確実にこの世界が灼眼のシャナの世界どおりに動くとは限らないが…。でもなぁ。

「なら、いいじゃない」

俺と同じ状態のフレイムへイズが居なくなるのは寂しいが、まぁ、彼女がそう言うのなら仕方が無いか。

「はぁ、解りました。そこまで言うのなら俺は止めません。
俺はベルニゲローデに行きますんで、貴方がオストローデから生きて出られたのならまた会いましょう」

「ちょっと、アンタ何言ってんのよ。アンタも当然私と一緒にオストローデに行くに決まっているでしょ。」

何で?!

「嫌ですよ、俺、あんな危険そうな都市に行くの」

「ふ〜ん、この紅世の王たる私に逆らおうっていうの。なんなら今此処で消滅してみる?」

だいぶこの体にも慣れたから全力全開(壊?)で紅世に送り返してあげるわよ、などと物騒なことを言う『秩序の雫』。

「いや、俺が貴方と一緒に行く必要性が無いでしょ」

「だって私、オストローテが何所にあるか知らないもの、全く。アンタなら道案内できるでしょ。それにアンタ色々知っているから一緒にいたほうが便利そうだしね。
それにアンタは、私をあの瓦礫の山に埋もれさせたまま、一晩中ほったらかしたっていう借りがあるでしょうが」

うわぁ〜。歩く辞書&地図扱いですか。否定できない自分が辛い。

しかも借りがあるって…それを借りというのか?なんか用法が間違っている気がするんだが。

まぁ、確かに罪悪感はあるけど。

「その案内人が危険だって言っているんですから、別のところに行きましょうよ。それなら付いていっても構いませんから」

とりあえずオストローデに行くことだけは勘弁願いたかったので、そう提案してみる。

「駄目よ」

「駄目って…」

そんなたった三文字で却下しなくても。

「全く、ただ外界宿に行くだけなんだから、そんなビクビクしなくても大丈夫よ。それに私の役に立つ限り、守ってあげるから」

「役に立たなかったら見捨てるんですか」

「当然じゃない。でも、ま、紅世での誼でお墓ぐらいは作ってあげるかもね」

なんか紅世の時と比べて性格が変わっていませんか?もう少し、優しそうなイメージを持っていたんですが。はぁ。

というかずっと紅世に居たのによくお墓なんていう概念を知っていたな

「アンタが以前に話したんじゃないの」

「あれ、そうでしたっけ。って、考えを読まないでよ」

何時の間にそんな自在法を。

「口から出ていただけ。まぁその前の言葉はボソボソとしか聞き取れなかったけどね」

一瞬、彼女の口から出た言葉に背筋が凍ったが、その後の言葉に胸を撫で下ろす。良かった。本当に良かった。

「そんなことより、ほら、さっさとオストローテに行くわよ。どっちに行けばいいのか案内しなさい。」

これでオストローデと偽って別の町に行ったらどうなるんだろう。そんなことを考えながら俺はやけくそ気味に彼女をオストローテへと案内するのだった。

まぁ、まだ、とむらいの鐘が活動を始めているとは限らないし大丈夫だよね。そうだよね。

はぁ〜、これからどうなるのだろうなぁ。


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