自在法とは基本的に
任意の現象を起こす式(自在式)の構築
↓
式の空間への発現
↓
現れた式への≪存在の力≫の充填
↓
起動の命令
という順序を踏まえて行われる。
つまり、任意の現象を起こす式である『自在式』さえ制作可能なら全ての自在法を操ることも理論上は可能なわけだ。
もちろん徒もフレイムへイズも自分の存在に近い性質の式を構築するほど簡単にでき、遠い式ほど構築できなくなる性質がある以上、理論上は可能であっても実際にはそのようなことは不可能であった。
だが世界とは面白いもので、物事には必ず例外というものが存在する。
原作にも登場した、『屍拾い』ラミーこと、『螺旋の風琴』リャナンシーである。
今現在、宝具『小夜啼鳥』として囚われの身になっているだろう彼女は、存在の力さえあればあらゆる自在法を使いこなすことが可能であり、それ故、囚われたのであった。
ここで一つ疑問が残る。『何故彼女は自らの存在から最も遠い式までも構築できた』のだろうか?
天才だったから?
確かにそれもあるだろう。だが如何に天才であろうと全ての式を一切の区別なく自在に構築できるというのは不自然すぎる。
そこで紅世で自在法を研究していた俺はこう一つの推論を立てた。
彼女の『存在としての本質』が全ての性質と等距離であった為ではないだろうか、と。
それなら、一つの自在法さえ完成させられれば、後は同じ要領で全ての自在法を完成させることができるはずだ。難易度が全て同じなのだから。
そして顧みるに、自分という存在も、『存在の聞き手』としてある意味において全ての性質と等距離に存在しているのだ。少なくとも他の王や徒に比べて何かに偏っているということは無い。
つまり、あくまでこれは一つの推論ではあるのだが、俺が紅世に居たとき様々な自在法を生み出しては、それを使う存在に合わせた形で教えることができたのは、俺の存在の本質が螺旋の風琴と極めて似たものだったからではないかと考えられるわけだ。
そして螺旋の風琴が即座に自在法を編み出せるのに対して、俺は多少なりとも研究をしなければ自在法を編み出せないことこそが、天才と凡才の絶対的な差なのだろう。
「なるほどねぇ。アンタが大抵の自在法を使えるのに、そんな理由があったんだ」
オストローデへと行く途中、『秩序の雫』と自在法の訓練をしていたら「自在法の中でアンタに苦手なものって無いの?」と尋ねられたので、取り敢えず推論の一つを言ってみた返答がこれである。科学者の端くれとしてはもう少し驚いて欲しかったのだが、まぁ彼女にそれを求めるのは無駄というものなのだろう。
ついでに言えば俺の炎の色は白に近い灰色だった。
原作で問題になっていた色とかなり似ているのは気のせいだろう。うん、気のせいだと思いたい。あくまで白っぽい灰色だ。少し明るみを入れたら銀になるなんて嘘だ。
「推論だけどね。何故俺たち紅世の存在がこの世界の存在の力を操ることができるのかっていう根本的なことさえ解っていないんだ。結局、その上に成り立っていること全てが推論に成らざる得ない。」
「ふ〜ん、全く、私からしてみれば、使えるのならそんな理屈なんて解らなくてもそれでいいのだけどね。」
そう言いながら『秩序の雫』は青白い炎を顕現させ、それを自分の周囲の空間を覆うように広げさせる。どうやら彼女は一日にも満たない道中の訓練で、もうオリジナルの自在法を組み上げてしまったらしい。白い衣服の周りを青白い光が纏っている光景は中々に神秘的だ。
というか、その何気ない炎の顕現に、俺の全存在の力の約半分が込められているってのはどうなんだろうね。つくづくこの世が不平等だってことを思い知らされるよ。
「そうは言っても、ただ感覚で自在法を行うより、自在式を改良した上で自在法を行ったほうが変換効率も威力も上がると思うよ。」
「いいのよ私は。アンタみたいに存在の力に不自由してるって訳でもないしね」
「まぁ、貴方がそう言うのなら構わないけど。それよりも、その自在法を人通りがあるところで行うのは止めたほうがいい。私は人外の化け物ですよって言っているようなものだから」
先程言ったとおり彼女が青白い炎を自分の体の周りに纏っている姿はかなり神秘的なのだ。目立つ上に、見つかれば間違いなく騒ぎになるだろう。こんな一般道(といっても時代が時代だけに碌に整備されてないが)で使うべき自在法ではないのは明らかだった。
「別にいいじゃない。人外であることには変わりないんだし」
いや、確かにそうだけど。やっぱり、ずっと紅世にいた彼女には騒ぎになったときの面倒くささが解らないのだろうなぁ。
「人外だって知られれば騒ぎになって、こうやってのんびり歩いていられなくなりますよ。オストローデまで全力疾走したいっていうのなら話は別ですが」
「確かにそれは嫌ね。でも、せっかく作ったのにこのまま消しちゃうのも勿体無いし」
何でそこでこっちを見るんでしょうか。非常に嫌な予感しかしないのですが。
「よし、アンタ私を全力で攻撃してみなさい」
はい?
「今、何ていいました?」
「だから私を全力で攻撃してみなさいって言ったのよ」
どうやら、聞き間違いではなかったらしい。でも何で?
「何でそんなことを?」
「全く、そんなこともわからないの。この自在法の力を試すために決まっているじゃない」
「ああ、その自在法、防御用だったのか。てっきり貴方の性格からして格闘戦用の自在法かと…」
ゴツンという、いい音と共に頭に激痛が走る。思わず蹲ってしまうほどの痛さだ。
「痛っ〜〜〜〜」
余りの痛さに涙が出そうになった目で見上げれば、『秩序の雫』が拳を振り下ろした状態で此方を見下ろしていた。
因みに俺は、幸か不幸か、傍から見れば自分の様子が『泣きそうになりながら上目使いで見上げている可愛いロリっ子』といったものだったことに気が付いていなかった。
気が付いていたらその場で自決していただろう。たぶん。
「アンタ、私を何だと思っているのよ。私はアイツみたいに戦闘馬鹿じゃ無いわよ」
「そう思って欲しいのなら、今みたいに暴力に出るの止めてくださいよ」
「うるさい。全く。ほら、さっさと攻撃を仕掛けてきなさい。アンタ程度の徒の攻撃ならびくともしないはずだから」
それにアンタの頭が殴りやすい位置にあるのが悪いのよ。などと呟く危険な美女『秩序の雫』。幾ら、俺の身長が百四十センチちょいで、貴方の身長は百七十近くあるからってそれは無いでしょ。
というか、如何しよう。今使えるので、最も威力が高い攻撃となると、『分解』『吸収』『爆発』の自在式コンボによる自在法なんだけど、これって防御無視の特性があるんだよな。相手の防御用自在法を『分解』して、『吸収』し、『爆発』させるっていう、相手の防御用自在法が強力なほど威力が高くなる極悪なコンボだから。
因みにこの自在法を開発したのは、俺が持っている存在の力の絶対量が少なく、こういった相手の存在の力を利用するような自在法じゃないとまともに相手にダメージが与えられない可能性が高かったからだったりする。
もし、これで攻撃して、彼女ご自慢の自在法を無視して彼女自身に直撃でもしたら…。
ガクガクブルブル、明日の朝日は拝めないかも。
「なに悩んでのよ。いい、下手に手加減なんてしたら承知しないからね。とっとと攻撃しなさい。アンタ程度の攻撃がこの王である私に防げないはずが無いんだから」
その言い方には流石にカチンと来た。俺にだって紅世で何百年も自在法を研究し、王達に教えていたプライドがある。
この、攻撃を成功させて彼女にあっと言わせたいけど、言わせたら言わせたでその後が怖いっていう気持ちを如何表せばいいんだろうね。
後から考えれば、このとき俺は彼女の自在法がどういう防御を行うものだったのか、彼女の『存在としての本質』から考えておくべきだったのだ。そうすればあの大惨事は起こらなかっただろうから。
「それじゃぁいくぞ」
お互いに距離を取ったところでそう声を掛ける。
「いいわよ」
『秩序の雫』がそう言うと共に自分の周囲に纏っていた青白い炎を周囲に、球状に拡散させた。
その様子から彼女の自在法が完全発動したことを悟った俺は、それに合わせるように自在法を発動させる。
白き灰色な炎が俺の手に集まり、そして、彼女目掛けて放たれた。
丁度二人の中間地点で、白き灰色の炎の塊が、青白い炎に覆われた空間に接触し、一瞬、均衡が生まれる。
だが、ここで俺も『秩序の雫』も想像していなかった事態が起こる。それは俺が彼女の自在法を知らず、彼女も俺が使った自在法を知らなかった故に起きた悲劇とでも言うべきか。
俺が使った自在法は、先程も言った通り、相手の防御用自在法を『分解』『吸収』して『爆発』させるというものだ。
そして彼女が使った自在法『力の拡散』は『存在の力を多いところから少ないところに強制的に流出させることによって、自在法を無力化する』というものだったのだ。
つまりどういうことかというと、
『分解』と『吸収』の自在法は、『力の拡散』が発動している空間において発動、『力の拡散』を維持している存在の力の吸収を始める。しかも、『分解』の自在式の効果により、一度吸収された存在の力が『力の拡散』によって拡散されることはない(『分解』の自在式により『力の拡散』が『吸収』の自在式の内部では分解されて無力化されてしまうため)
↓
『力の拡散』の特性から、吸収されたことで存在の力が少なくなった空間に他の空間から存在の力が流れ込む。
↓
その流れ込んだ存在の力が『分解』と『吸収』の自在法によって吸収される。
↓
吸収されたことで存在の力が少なくなった空間に『力の拡散』を維持している存在の力が流れ込む。
↓
・
・
・
以下エンドレス
ということが、ほんの一瞬のうちに起こったという訳だ。
そして、存在の力が溜まりに溜まったところで、『爆発』の自在法が発動。
ドッカ―――――――ン!!!!
俺が咄嗟に防御の自在法を使っていなかったら、『秩序の雫』の『力の拡散』が僅かにも残っていなかったら、たぶん二人とも怪我じゃすまなかったと思う。
そんなことを思いながら、爆風に跳ね飛ばされた俺は気を失うのだった。


